本設計は、三重県志摩市に位置する伊勢志摩国立公園横山集団施設地区の横山展望台を対象とした再整備設計です。設計対象である展望テラスと展望休憩所からなる横山天空カフェテラスを含めた3 箇所の展望施設とそれらに付帯する遊歩道が2018 年に供用開始されました。
 横山展望台が持つ価値は、民有地の割合が96%以上の伊勢志摩国立公園のなかで、人々の営みと自然が織りなす里山里海への俯瞰の眺望です。リアス海岸と真珠の養殖筏等から構成される英虞湾への眺望は絶景であり、当該価値をさらに顕在化することが重要であると考えました。
 本設計では、眺望方位や視点場等の再設定を通じて、当該価値を引き出し、来訪者が英虞湾の景観をゆっくりと楽しみ、上質な体験ができる展望施設を目指しました。食や文化の恵みの源泉となる英虞湾に対して清々しく対峙できるように、展望施設では施設構造物の素材をシンプルかつ上質なものとし、雑味のない眺望の場としました。展望施設の転落防止柵は、眺望への透過性を高めるために、自然な質感となるリン酸処理を施したφ13mmの縦格子の鋼材を用い、デッキ材には小節の尾鷲産のヒノキ材を用いて素材と形態の主張を抑え、風景に対して清々しく対峙できるように心がけました。
 整備前の2016 年に開催された伊勢志摩サミット以降の利用者増加に伴い、混雑度が高く、ゆっくりと眺望を楽しむことができないという課題があった中、交通量調査等による利用者数の推定により、適切な規模の眺望空間の確保と、各展望台の利用形態の多様化を図りました。横山天空カフェテラスでは、眺望空間を確保するために、民間のカフェを導入した休憩所からの眺望を確保し、展望デッキの最先端部にバリアフリーかつ余裕のある眺望の場を確保しました。展望デッキの背面には、最先端部に利用者がいても眺望が楽しめる着座機能のあるテラス状の階段を設けました。こもれびテラスやそよ風テラスでは、飲食可能なカウンターをもった休憩施設を配置し、多様な利用形態に対応できる場を確保しました。特徴のある展望施設を分散配置することで、利用形態の多様化と混雑緩和を図り、回遊体験を通じて上質な空間体験ができると考えました。
 これらの設計の成果として、横山展望台が「旅好きが選ぶ!日本の展望スポット 2020」において8 位に選定されました。また、2022年度には横山園地の来訪者数が36 万人まで増加しており、国立公園の利用施設の上質化を通じて、国立公園のブランド力を高め、国内外の誘客を促進し、地域の活性化に貢献しました。
伊勢志摩国立公園 横山展望台の画像
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